戦前から戦後の「継続」と「断絶」
M先生から依頼された信時潔作品によるリサイタルのプログラムーツにとりかかった。
やはり作曲家の生涯を見通し、その思想や意識を見据えて音楽を考えたいといったことを整理したい、と思いつつ書き進めていきます。
信時潔の場合は、やはり1910年代から1960年代に至る半世紀の取組みを一貫して見通すことが重要と思います。
継続や断絶を意識しながらこのプラグラムーツを書いています。
十五年戦争という戦災の前と後、阪吹E淡路大震災や東日本大震災という震災の前と後なども意識しつつ、書きながら昨秋開催された三多摩青年合唱団栗友会合唱団演奏会うたのいとなみ平和のいとなみのゲネプロ録音を聞いています。
この演奏会企画の第二部は、戦争の時代を同時期の作品、戦後の視唐ゥら戦時期を捉えた作品から見据えることを主眼として次のような曲目で構成しました。
1雨北原白秋詞、弘田龍太郎曲口笛演奏2骨のうたう竹内克O詞、寺嶋陸也曲3Fragments特攻隊戦死者の手記による信長貴富曲4若鷲の歌西條八十詞、古関裕而曲5別れ船清水みのる詞、倉若晴生曲6かへり船清水みのる詞、倉若晴生曲6海ゆかば大伴氏言立、信時潔曲7君にあううれしさの寺嶋陸也編曲8ひろしま平和の歌重園贇雄しげぞのよしお詞、山本秀やまもとみのる曲9千羽鶴横山鼎詞、大島ミチル曲10死んだ男の残したものは谷川俊太郎詞、武満徹曲、寺嶋陸也編11雨水のいのちより高野喜久雄詞、高田三郎曲12地上の祈り大地讃頌土の歌より大木惇夫詞、佐藤眞曲この構成を考える中で、どうしても実現したかったのが、1940年に発表された別れ船と、1946年に発表されたかへり船を連続して演奏することでした。
作詞清水みのる、作曲倉若晴生、歌唱田端義夫で発表されたこの楽曲は、戦時期から戦後への連続性を象徴する音楽と思っています。
出征する兵士を見送る歌としての別れ船、敗戦によって復員する兵士を迎える歌としてのかへり船。
敗戦を挟んだ社会を連続して捉えたこの楽曲は、作詞作曲歌唱とも同一布陣で作られ演奏された稀有のものとして、機会があればこれからも連続して演奏し、そこから見えてくる、聴こえてくるうめき嘆きあきらめそしてかすかな希望を感じていきたいと思っています。
もうひとつ、この演奏会では戦後を表現するために、私の構成によりトウキョウカンタート2009で初演された寺嶋陸也編曲による流行歌メドレー君に会ううれしさのも組み入れました。
りんごの唄とんがり帽子東京ブギウギ異国の丘水色のワルツモンテンルパの夜は更けての女声合唱メドレーですが、ここでもまた戦後の流行歌も、戦後民主主義の象徴として言及されるりんごの唄青い山脈が著名ですが、音楽には、それだけでない社会の矛盾や戦争の傷跡が色濃く反映されている側面も多々あります。
このメドレーでは、戦後の出発を、自由希望反戦戦争の惨禍と影響といった様々な側面から照射したいという思いで6曲を選び、編曲も寺嶋先生リーディングホースには極力原曲の雰囲気の再現を、とお願いしました。
戦時期からの継続と断絶を意識しながら、敗戦後の社会をうたから再考することも私の課題です。
この流行歌メドレーは、戦前篇で7曲、今回再演した戦後篇Ⅰ、戦後篇2で3曲の合計16曲で構成しています。
それぞれ独立させていますので、篇ごとに演奏可能です。
この三部構成による流行歌のメドレーは、寺嶋陸也編曲女声合唱とピアのための三つの流行歌メドレー君に会ううれしさのとして、カワイ出版から楽譜が出版されています。
ちなみに戦後篇2は、元々男声合唱でしたので、こちらは男声合唱とピアのための流行歌メドレーしあわせは空の上にとして、同じくカワイ出版から刊行されています。
多くの皆さんに演奏していただき、時代を見据え歴史と対峙していただきたい、と思っています。
音楽文化に限らず、戦前から戦後の継続や断絶の問題は必ず意識すべき問題かと思われます。
特に我が国の音楽の歴史は、1920年代の管弦楽運動や童謡運動、流行歌やポピュラー音楽の興隆から、いきなり戦後に飛んでしまい、戦時期がタブー視されてきたのが現実です。
特に戦時期のうたは軍国主義天皇崇拝といった側面が色濃く反映された作品が多いために、多くの楽曲が断絶され封印されています。
しかし音楽文化の歴史や歩みを考えた場合、この現実が大きな壁になっているように思えてなりません。
歴史を客観的かつ科学的に正視した上で、これらの音楽作品を考えるべきではないでしょうか。
そう思って課題に向き合っていると、カのみならず作品再演による演奏への取組みにもとりつかれてしまいます。
ちなみに、今年は信時潔の生誕125年という記念イヤーです。
改めて適宜情報を発信したいと思っていますが、洋楽文化史研究会では、今年11月23日に千駄ヶ谷の津田ホールで生誕125年信時潔とその系譜と題した演奏会を企画しているので、皆さまご期待ください。

